熊本大学沿岸域環境科学教育研究センター
准教授・秋元 和實
平成23年11月2日(水)
今年度調査した水俣湾では,1977年 (昭和52年)から1990年 (平成2年)にかけて,暫定除去基準値(水銀25ppm)以上の水銀を含有する底質 (約1.5X106m3)が除去された.一方,柱状堆積物試料の水銀濃度から残留量が見積もられている (児玉谷仁ほか:http://www.jsac.or.jp/tenbou/TT70/p1.pdf).しかしながら,ドレッジによる除去後の地形は平坦でないため,高濃度の水銀を含む地層の厚さは一定ではない.残留量の推定には,水銀排出後に堆積して,除去されなかった地層の厚さを見積もることと,水銀の3次元分布の情報が必要である.そこで,精密な地形図を作成し,ドレッジ前に作成された国土基本図との比較・解析することが求められる.
また,生物生息環境において,底質も生物の種類,分布を規制する重要な要素のひとつである.環境省国立水俣病総合研究センターの 森 敬介氏 (国際・総合研究部自然科学室長)は,沿岸の4カ所で生物調査を実施している.これまで湾外の岩礁で生物が生息していることは,報道されている.しかしながら,いずれも湾内は未調査である.そこで,生物多様性の調査に向けて,水俣湾全域で取得されたサイドスキャンイメージを同じフィルタリング処理の基で反射強度のモザイク画像を作成し,代表的な地点の底質の分析値と比較することで,詳細な底質の分布の把握を試みた.
2011年6月11日?18日に水俣湾 (袋湾を含む)内を,9月26日〜10月4日に水俣湾の北西沖を,インターフェロメトリー測深・サイドスキャン (送受信周波数:250kHz,64μ秒? 448μ秒)およびパラメトリック高精度地層探査装置 (送信周波数:1次周波100kHz,2次周波10kHz)で調査した (測線間隔は,南北200m,東西50m).4地点 (FUK1,MIN1,MIN2,MIN3)において,音響に関係する物性 (密度,含泥率,含水率)を把握するために,堆積物をオランダ式グラブ採泥器で採集した.分析は,株式会社同仁グローカルに外注した.10月26日?28日には,水俣湾内南東部と水俣湾?袋湾水道部で,環境モニタリングロボットに搭載したCCDカメラによる画像収集をした.
本調査で作成した海底地形図 (図1)と浚渫前に測量された1:25,000土地条件図 (国土地理院発行)の地形は,おおむね一致する.しかし,水俣湾東部には,地形断面図でも,25ppm以上の水銀を含む底質をドレッジした痕跡が,深さ約1mの窪地として認められた.
窪地ドレッジ周辺の堆積物にも,ドレッジが行われていない袋湾の堆積物にも,規制値以下の水銀が含まれているので,拡散に影響する可能性がある.
水俣湾と袋湾には泥が,水俣湾沿岸部,水俣湾内の瀬および水俣湾?袋湾間の水道には露岩が分布する (図2).秋元ほか (2005)が報告した粗粒砂の分布は瀬の周辺に限定されることが明らかになった.
泥の比重が,比重が2.5-2.55と大きいため,沿岸に露出する安山岩類に由来する砕屑粒子が混入していると判断される.
泥質堆積物が分布する袋湾湾口部や水俣湾南東部は,透明度が低い.スミスマッキンタイヤー型採泥器では,生物試料を得られなかった.ロボットによる調査で,ドレッジ後の泥底にも多数の生物の生活痕 (摂食あるいは巣穴:図3 )が分布し,大型の生物が棲息すること (図4)が初めて明らかになった.
図3 袋湾湾口部の泥底表面 (AUV 搭載のCCD カメラ映像) |
図4 袋湾海底の生物 (棘皮動物?) |