2003年2月6日(木)実施
ハクセンシオマネキ
ハクセンシオマネキ写真1
  ハクセンシオマネキは合津マリンステーションが位置している天草松島に豊富に生息している小型のカニ類である(写真1)。甲の幅は親ガニで18ミリ程度である。雄の片一方のハサミが巨大化している。雌ではハサミは共に小さい。

【食物】
  食物は干潟表面の砂に含まれる有機物やバクテリアである。それそれが深さ10ー20センチの巣孔を持っている。潮が満ちている時とか、気温が低い時、雨の日には巣孔にこもっている。潮が引き、昼間で条件がととのうと巣孔からでてきて、活動をする。雌は2本のハサミを交互に使用し、雄は小さい方のハサミで砂をすくって口に運び食事をしている。

【繁殖】
  6ー8月の繁殖期には、雄は巨大ハサミを振り動かして雌を誘う。しかし、誘われるのは特別な雌だけである。卵巣が発達して、いつでも産卵できる状態になった雌は干潟を放浪し始める。そうした雌だけが雄に反応する。放浪雌を見つけた雄達は巨大ハサミを特に活発に動かして、何とかして自分の巣孔へと誘おうと努力する。放浪雌は、どれかの雄の巣孔に入るが、しばらくすると出てきてしまう。そして別の雄の巣孔に入るが再び出てくる。そうしたことを10回くらい繰り返してようやくある雄の巣孔に落ち着き、交尾をする。

【雄の巨大なハサミの謎】
  雄にとって大切な求愛の道具の巨大ハサミの左右性は遺伝的ではなく、偶然的に決められる。小さな雄では巨大ハサミはまだ未発達で、どちらも小さい。甲の幅が3〜4ミリの時に、自分でどちらか一方のハサミを脱落させる。落とされた側にはハサミが再生してくるが、それは巨大ハサミにはならない。落ちなかったハサミは発達して巨大ハサミになる。左右どちらのハサミを脱落させるかはそれぞれの雄の自由である。サイコロの目が偶数になるか奇数になるか、多数回投げると同数になるように、多数個体を調べると、左右比は1:1になっていることが判る。実験的に小さい個体からハサミを落とすと、必ず落とされた側が小さくなる。また、ハサミを2本共に除去すると、巨大ハサミが発達しない、外見は雌みたいな雄にすることができる。

【巨大ハサミを使用した闘争】
  巨大ハサミは固く丈夫である。これではさむと、相手の甲には深い傷ができて、死んでしまう。しかし、巨大ハサミを使用した闘争にはルールがある。巨大ハサミ以外のものは絶対にはさまないのである。丈夫な巨大ハサミは、はさまれても傷は付かない。雄は相手の巨大ハサミをはさんで投げ飛ばそうとする。投げられたら負けになる。闘争は比較的稀であるし、ルールがきちんと守られるので、そのことで殺されるとか傷を負うようなことは無い。また、雄は巨大ハサミを突き出して雌をおどすことがある。しかし、それは見かけだけで、雌をはさんで傷つけることは絶対にしない。雌もそのことを知っているので、脅されても平然としている。


オヨギピンノ
オヨギピンノ  オヨギピンノは内湾に 10 年か 20 年ごとに突然に出現して大群で泳ぎ回る小型のカニである(写真2)。群れは年2回、6ー8月と11月に出現する(写真3)。甲の長さは親ガニで12ミリ程度である。有明海ではミロクガニと呼ばれている。貝の中に入り込んで寄生生活をするピンノと呼ばれるカニ類の仲間であり、かつ泳ぐために、オヨギピンノと名付けられた。

  しかし、このカニは、貝に入ることはなく、寄生生活はしない。八代海には 1988 年に突然に出現した。その後毎年出現していたが、2001 年 7月に突然に姿を消してしまい、その後全く観察されていない。有明海では 1947 年に大発生があった。ごく小さな時期から集団で泳ぎ回る。集団を構成する個体数は5千くらいから数百万である。なぜ時々大発生して、集団群泳をするのか、それにどういう意味があるのかは不明である。

オヨギピンノの群れ  第一歩脚は体の前方に伸ばしたままであり、動かさない。体のバランスを保つのに役に立っているのであろう。第2〜4歩脚には縁に毛が密生している。第2と第3歩脚は長いが第4歩脚は短い。主として第2と第3歩脚で推進力を得て、第4歩脚を体の向きを変えるのに用いていると思われる。前方に向かって泳ぎ、横ではない。しかし、一時的に横に泳ぐことは可能である。泳ぐためには歩脚をずいぶんと活発に動かしており、大きなエネルギーを消耗している。

  それをどのようにして補給しているのかも不明である。遊泳時にプランクトンを食べているが、その量はわずかであり、とても補給にはならない。一日中遊泳をしているのではなく、12時間の周期がある。昼間だけではなく、夜間にも泳ぐが、泳いでいない間の生活は残念ながら不明である。

  海底にいる時にさかんに食べないと泳ぐために必要なエネルギーの補給はできないと思われるが、主に何を食べているのか、まだ突き止めていない。海底における生活状態を何とかして調査したいと考えていたが、遊泳海域の水深は20-50 mあるために潜水調査はできず、思うように進展しなかった。そうこうするうちに謎を残して姿を消してしまった。