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D.環境保全 > 2.環・阿蘇/有明・八代海の環境保全とブルー・グリーンツーリズム > (1)環境と共生する方策と環境教育 |
D.2-2-1 市民公開講座「有明海・八代海を科学する」
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6.ハマグリを通してみる沿岸域の悪化 |
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ハマグリMeretrix lusoriaは,河口や内湾の干潟に生息する二枚貝 |
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この講義で『ハマグリ』と言うときには,ハマグリ類(ハマグリMeretrix属)と,種としてのハマグリM.
lusoriaのどちらを指しているかに,注意して欲しい |
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ハマグリ類(蛤)は日本をはじめ東アジア周辺の人々にとって身近な食材である.日本各地の貝塚から多産し,縄文時代(約8,000年前)から食べられていたことが判る. | |
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※全国の貝塚から出土する貝類ベスト10 1.ハマグリ
2.カキ類 3.アカニシ 4.アサリ 5.サルボウ 6.オキシジミ 7.シオフキ 8.ハイガイ 9.ツメタガイ
10.オオノガイ ちなみに,現在では高級食材の,アワビは24位,サザエは29位 | |
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ただし、地方によって出土する貝類の種類は異なっている。北海道東釧路貝塚では、春にはアサリ、夏以降はマガキ、ホタテガイが中心で、秋から冬にかけて貝類は乏しい。全体では、アサリが70%近くを占め、続いてマガキ、オオノガイが多く、アカガイも見られる。なお、アサリ、オオノガイ、マガキ、アカガイは、現在の釧路では漁獲されていない。当時は温暖で、縄文海進の時期にあたっていたと考えられる。 | |
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ハマグリ(類)は、軟体動物門二枚貝綱マルスダレガイ目マルスダレガイ科ハマグリ属(Meretrix属)の総称。日本には、ハマグリとチョウセンハマグリが分布するが、近年、シナハマグリが移入されている(外来種)。 | |
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ハマグリMeretrix
lusoria:
日本国内では東北〜九州、海外では朝鮮半島南部に分布。河口や内湾の干潟に生息。日本在来種。 |
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チョウセンハマグリM.
lamarckii: 日本国内では東北〜種子島、海外では韓国・台湾・東南アジアに分布。
外洋に面した砂浜の低潮帯から潮下帯に分布。日本在来種。 |
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シナハマグリM.
petechialis: 日本国内には生息しない。海外では黄海(朝鮮半島西岸〜中国大陸)に分布。
ただし、現在多量に輸入されており、養殖や放流によって国内でも生息が確認される地点が増加している(外来種=移入種)
河口や内湾の干潟に生息。 | |
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このように、とは在来種で、は外来種。とは内湾性、は外洋性。 | |
図 日本周辺のハマグリ属 3種 |
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ハマグリ Meretrix lusoria (大分県中津市大新田) |
ハマグリ (韓国慶尚南道泗川市) |
ハマグリ (韓国全羅南道康津郡) |
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チョウセンハマグリM. lamarckii (神奈川県藤沢市片瀬西浜) |
チョウセンハマグリ (鹿児島県種子島) |
M.sp. トゥドゥマリハマグリ (沖縄県竹富町西表島浦内川河口) |
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シナハマグリ M.petechialis (韓国全羅北道群山市玉峰里) |
シナハマグリ (韓国全羅南道霊光郡) |
シナハマグリ (韓国全羅北道萬頃江河口) |
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ハマグリ類の形態的な違いは量的なものであるため、初心者が形態上の違いでそれぞれの種を識別するのは難しい。ただし、熟練すれば、全体の形や模様によって、大部分の個体は比較的容易に識別できるようになる。 また、いずれの種も、酵素タンパクや分子系統には違いがある。したがって、電気泳動や塩基配列の違いによって、それぞれの種は明確に分離できる。
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日本では、埋め立てによる干潟の消失や海洋汚染に伴い、内湾性のハマグリ(M.
lusoria)が激減した。例えば、1980以前には全国で年3,000〜9,000tあった漁獲量が、現在では2,000tを割り込んでいる。しかも、近年の漁獲量には放流したシナハマグリも含まれている可能性が強い。 有明海はハマグリの漁獲量が国内で最も大きい地域であったが、1972〜79年には平均3,500tあった漁獲量が、2000〜02年には平均173tにまで減少している。
種としてのハマグリも絶滅が危惧されるため、様々なレッドデータブックに登載され、以下のような評価を受けている。 減少(水産庁,1994)、危険(和田ほか,1996)、消滅(相模湾,池田ほか
2001)、絶滅危惧IB類(熊本県,2004)
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ハマグリM.
lusoriaは現在、日本では青森県陸奥湾を北限として鹿児島県まで分布し、国外では韓国南岸(釜山〜康津)に生息している。ただし、生息状況は、国内外とも危機的状態である。日本国内で、年10t以上の漁獲量があるのは、熊本県(有明海・八代海)、京都府(若狭湾),福岡県(加布里湾)のみに過ぎない。また、韓国でも河口堰の建設や埋め立てにより、各地の個体群は大きく衰退している。 一方、シナハマグリM.
petechialisは、黄海(韓国の西海岸〜中国)に分布している。各地の生息状況には不明な点が多いが、韓国群山では大規模な干拓事業によって最大の個体群が消滅寸前である。また、チョウセンハマグリM.
lamarckiiは、東南アジアまで広く分布する種類で、低調帯から潮下帯に生息するため、前2種に比べて危機的状況にはないが、国内の主要な漁獲地である茨城・千葉県での漁獲量は減少傾向にある。
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ハマグリを保全するには、ハマグリの生息する干潟環境を保全するしかない。ただし、埋め立てや汚染によって、消失・悪化した干潟を回復するのは簡単ではない。また、時間もかかる。以下に、現時点でも可能な保全策を列挙する。 | |
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1 |
乱獲を防ぐ |
漁業者間で取り決めを作り、乱獲を防ぐ必要がある。ハマグリの採集が許可される時間帯・区域や、採集可能なサイズ・重量などの制限を設け、「持続可能な水産資源の利用」を計るべきである。特に、毎年十分な母貝を残すことに留意すべきであろう。 |
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2 |
シナハマグリの放流を止める |
シナハマグリの放流は、逆にハマグリ個体数の減少をもたらす。また、両種間の交雑を引き起こし、純粋なハマグリを絶滅させる(遺伝子汚染)。雑種には、繁殖能力がない、または繁殖能力が低いと考えられるので、結果的にその地域におけるハマグリの増殖に悪影響をもたらす。 |
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3 |
ハマグリのブランド化を計る |
これは生物学的な話ではないが、例えば、「熊本ハマグリはおいしくて安全」というブランド性を売り出すことは有効である。「きれいな熊本の海の安全なハマグリ」「シナハマグリによる遺伝子汚染のない日本本来のおいしいハマグリ」をアピールし、シナハマグリなど外国産のハマグリに負けない努力が必要である。 | |
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【熊本大学 地域貢献特別支援事業】 |