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 D.2-2-1  市民公開講座「有明海・八代海を科学する」
 
 ■日時・場所■

  日時 : 平成16年11月4日(木)

  場所 : 熊本県民交流会館パレア
 
 ■講義概要■
1.潮間帯
  潮の干満によって干出・冠水を繰り返す地域.干潮時は干出して陸となり,満潮時は冠水して海底となる.     
     
 
潮上帯− 潮間帯(高潮帯−中潮帯−低潮帯)− 潮下帯(浅海)

 
2.干潟の機能と悪化
  (1) 生物生産性 … 食料としての魚貝類だけでなく,新素材・薬品の原材料等としても重要.未知の遺伝資源
   → 魚貝類の激減.海苔の不作.外来種の侵入による在来種の減少.外来種との交雑による遺伝子汚染
  (2) 生物多様性 … 海草・貝類・水鳥など、干潟は生物の宝庫.特に有明海・八代海には特産種が多い.
   → 埋め立てや環境悪化による生物多様性の減少.外来種侵入による在来 種の減少.外来種との交雑による遺伝子汚染
  (3) 浄化機能 … 細菌によって浄化が行われるだけでなく,海苔や魚貝類の漁 獲によっても海域から多量の栄養塩類が除去される.
  → 環境の悪化による浄化能力の低下.底生動物の激減による底質攪乱・生物濾過機能の低下.漁獲の減少による富栄養化物質の増加.
  (4) 親水性 … 干潟は身近な自然である。潮干狩りやバードウオッチングなど、多くの人が干潟に集まる.
  → 干潟の減少,海岸の堤防設置,漁業権強化による市民と干潟との隔離(入浜権).
 
3.干潟の環境と生物
 
干潟の底質(砂泥)は,川や海から供給される.一般に,潮流の速い場所は砂質干潟となり,遅い場所は泥質干潟となる
  
  (1) 海洋生物の生活形
    a. 生活様式
プランクトン(浮遊生物) 移動力が全くないか,弱いため,水に浮いて生活する生物の総称.干潟に生息する動物の多くはベントスだが,幼生は一時的にプランクトンとして生活するものが多い
ネクトン(遊泳動物) 移動力が大きく,水の動きなどに逆らって,水中を自由に遊泳して生活する生物の総称.干潟では,河口や潮だまりで生活する魚類や満潮時に干潟に入ってくる魚類などがこれにあたる
ベントス(底生生物) 底で生活する生物の総称.干潟では,貝類・多毛類・甲殻類が主なメンバー
 
    b. 生活史 … 繁殖特性(繁殖開始齢・繁殖期・産卵数など)や寿命といった一生を生きる上でのスケジュールを生活史という
一回繁殖と多数回繁殖
r戦略とK戦略
大卵少産と小卵多産
 
  (2) 沿岸域に生息する動物の食性
肉食 餌動物を襲って食べる種類,あるいは動物の死骸に集まる種類.ツメタガイ・アラムシロガイ・ガザミなど
懸濁物食(濾過食) 水中の微小な動物プランクトンや有機懸濁粒子を濾し集め,食物としている種類.アサリなどの二枚貝
藻(草)食 アオサやアマモなどの海藻・海草や,砂の表面の微小な藻類を食べる種類
堆積物食 堆積物表面の底生珪藻や有機物粒子を食べる種類.サクラガイ・コメツキガニなど
泥食 泥を摂取し,消化管内で栄養分を吸収し,不要な砂粒などを排泄する種類.ムツゴロウ・ゴカイ・タマシキゴカイなど

懸濁物をセストン,堆積物をデトリタスという.一般に懸濁物食の動物は砂地や岩礁に多く,堆積物食の動物は泥地に多い.
 
  (3) 生食連鎖と腐食連鎖
・生食連鎖 … 植物(植物プランクトン・海藻・海草など)の生産者を起点とする食物連鎖.陸上では主要な食物連鎖
・腐食連鎖 … セストン・デトライタスなど微生物を起点とする食物連鎖.海洋では主要な食物連鎖
 
4.浅海域
沿岸域とは水深200m程度までの海洋を指す.沿岸域は潮間帯と浅海からなるが,陸上から多量の無機塩類(N,Pなど)や有機物が流入するため,海洋では最も生産性が高い(光合成が盛んに行われる)地域である.そのため,漁業など人間の生産活動も盛んに行われている.
 
5.沿岸域の悪化と保全
(1) 富栄養化人間活動の急激な増大に伴って、都市・工場・農業排水などから多量のリン・窒素などの栄養塩類が湖沼・内湾などの流入し、そのため植物プランクトンなどの藻類がおびただしく繁殖し、水を濁らせ、多量に生産された有機物の分解に伴い溶存酸素を消費つくすなど、水質を悪化させる現象。
(2) 赤潮鞭毛虫類や珪藻類などのプランクトンが爆発的に増殖する現象。海面が赤茶色に変色する。富栄養化に伴い、各地で頻発している。赤潮に影響としては、魚類の鰓などの閉塞、プランクトンの死滅分解による急激な酸素の消費、有害物質の分泌などが挙げられる。
(3) 夏季成層:夏季に表層水と底層水の対流が起こらず成層化する現象。閉鎖性の強い水域で起こる。特に富栄養化した水域では、底層水が極度の酸欠となる。
(4) 酸化層・還元層:水域に有機物が堆積しても、酸素が豊富であれば好気性細菌(浄化細菌)によって完全に分解される。しかし、有機物が多過ぎると分解によって多量の酸素が消費され、酸欠になり、好気性細菌が減少、代わりに嫌気性細菌(腐敗細菌)が増加する。嫌気性細菌は有機物を嫌気的に分解するため、硫化水素などの有害な副産物を生成し、環境を悪化させる。一般に土壌表面は空気や海水に触れるため酸素が豊富で好気的、内部は酸素が少なく嫌気的である。好気性細菌の多い層を酸化層、嫌気性細菌の多い層を還元層という。
 
 
 
【熊本大学 地域貢献特別支援事業】