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D.環境保全 > 2.環・阿蘇/有明・八代海の環境保全とブルー・グリーンツーリズム > 2-(1)「有明海・八代海を科学する」
 D.2-2-1  市民公開講座「有明海・八代海を科学する」
 
 ■日時・場所■

    日時 : 平成16年11月11日(木)

    場所 : 熊本県民交流会館パレア

 ■講座概要■
1.名前について
  ヤドカリはまさに貝殻を借りて住んでいる生き物なので、「ヤドカリ」というネーミングは言い得て妙だと思います。ちなみに英語ではhermit crab (隠者ガニ) と呼ばれます。ヤドカリ科の学名はDiogenidaeですが、これはギリシャの哲人ディオゲネスが酒樽に住んでいたという故事に由来するそうです。なおホンヤドカリ上科は右手が大きく、ヤドカリ上科は左右相称か左手が大きいというのが大きな特徴で、有明海・八代海でみられるヤドカリのなかで、右手が大きいヤドカリは、たいてい○○ホンヤドカリという名前になります。
 
2.有明海・八代海の沿岸にみられるホンヤドカリの仲間
  干潟に広く分布しているのは、ハサミや脚に白地に灰色から黒のまだら模様のあるユビナガホンヤドカリです。岩場にはハサミと脚の先が白いホンヤドカリ (図1)、毛深くて黒い斑点のあるケアシホンヤドカリ、脚に黒いストライプのあるヨモギホンヤドカリなどが生息しています。
3.ヤドカリと貝殻の関係
  ヤドカリは貝殻に隠れることで、温度や塩分濃度、乾燥などを緩和することができ、さらに魚やカニなどの天敵から身を守ることもできます。貝殻のうえにイソギンチャクを付けるヤドカリもいますが (図2、ソメンヤドカリ)、天敵のタコから身を守るためと考えられています。一方、貝殻が大きすぎると歩行が不自由となり、貝殻が小さすぎると成長が抑制されてしまうので、適切な貝殻を選ぶことがヤドカリにとって重要です。
  ヤドカリの貝殻サイズ選択は、意外と精妙なもので、例えば、波あたりの強い海岸にすむヤドカリは波あたりの弱い場所にいる同種のヤドカリよりも大きめの貝殻を選ぶことが知られています。また、ヤドカリは脱皮によって大きく成長するが、ホンヤドカリの一種では、同じ個体でも次の脱皮日が近づくほど大きめの貝殻を選ぶようになる種もいます (図3、図4)
  巻貝には色々な種があるので、当然、ヤドカリが利用する貝殻にも色々な種類があります。ヤドカリは状況に合わせて貝殻の種類も選択することが知られています。例えば、ホンヤドカリでは捕食者のカニの匂いがするときは捕食者に対する防御力の強い貝殻を選びますが (図5、図6)、安全な状況だと判断すると捕食者に対する防御力が弱くても軽い貝殻を選ぶようになります。
4.ヤドカリの繁殖行動(交尾前ガード行動と交尾)
  繁殖期(ホンヤドカリ上科はおもに冬、ヤドカリ上科はおもに夏)になると、多くのヤドカリの種で、オスが産卵間近なメスの貝殻を小さい方のハサミで掴んで歩くという交尾前ガード行動がみられます (図1)。この行動の最中のメスは他のオスにとっても魅力的なので、オスはしばしばメスをめぐって競争(とっくみあいの喧嘩)をします。このとき最初にメスを掴んでいたオスの方が有利ですが、ライバルのオスの方が大きいと負けることもあります。
  オスは状況に応じて交尾前ガード行動を始めるタイミングを変えることが知られています。性比がオスに偏っているとき、ライバルのオスが比較的大きくて手強いとき、メスと出会う頻度が低いときには、オスは早めにガードするようになります (図7)
5.役に立つヤドカリ (?)
  海岸には色々なヤドカリが生息しているが、その分布パターンは環境条件の影響を受ける。そこでオーストラリアではヤドカリを環境指標種にもちいる試みも行われています。ヤドカリは巻貝の貝殻がなければ生活できないという点で他の生物との関係が分かりやすく、さらにヤドカリのハサミはカニに比べると小さく安全なので、小さな子ども達の環境学習の対象としても適しているでしょう。また、ヤドカリが水産資源となる例もあります。ホンドオニヤドカリは高価な釣り餌として利用されています。また、外部形態や分子系統樹から、タラバガニの祖先はヤドカリだと考えられていて(例えばタラバガニの腹部は左右不相称になっている)繁殖行動もヤドカリとよく似ています。実際、北海道に生息するオホーツクホンヤドカリという大型のヤドカリを茹でて食べると、腹部がカニミソに似ていて、たいへん美味です。
 
 
【熊本大学 地域貢献特別支援事業】