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八代海の底質分布特性 熊本大学沿岸域環境科学教育研究センター 秋元和實 平成17年10月5日 南北約60km、東西15kmの北東-南東にのびる閉鎖性の高い八代海は、4mに達する潮位差と国内干潟面積の約7.3%の干潟が分布するために、独特の自然環境と固有の生物相が形作られている。北部では有明海と、南部では東シナ海と海水を交換している。北部には、唯一の一級河川の球磨川から年間38億m3の淡水が流入する。このために、北部と南部では海洋および底質環境が異なる。このことは、表層水の特性(滝川・田中、2005)ならびに底生生物相の差異(菊池、2005)として現われている。 八代海でも、北東部では埋め立ておよび護岸が行われ、河川を通じて陸域からの無機・有機物が流入し、養殖漁業など海面利用も盛んである。したがって、海洋および底質環境は、陸域あるいは海域からの人為的影響を受けて変化することを示している。 しかしながら、八代海における環境情報は有明海に比べて極めて少ない。例えば、表層堆積物の粒度組成は底生生物の分布を規制し、粒子の削剥・移動・堆積による地形変化は波浪に影響を与える。堆積物の分布は、17年間に海域ごとに調査されている(北部では建設省国土地理院、1974および1979)が、Rifardi,etal.(1998)が南部を、秋元ほか(2005)が全域を単年度において調査しているにすぎない。 今回は、八代海における堆積物、含泥率、含有酸揮発性硫化物および水質調査の結果に基づいて、底生生物の主な生息条件である底質分布(図1)と、その特性を決定する海水の流動と水塊の分布を講演した。主な内容は、1)シルトあるいは極細粒砂が広く分布するが、底層において潮汐の流速が1ノット超える海域には細粒砂あるいは中粒砂が卓越する。2)湾奥の3区域で粒度組成が変化していた。1973年には、氷川沖から宇土半島の間には泥質砂が、干上瀬には泥質砂あるいは砂が分布していた(建設省国土地理院、1974)。31年後には、前者はシルトに、後者は極細粒砂あるいは細粒砂に変化し、細粒化していた(秋元ほか、2005)。天草上島北東方では、1978年には泥が堆積していた(建設省国土地理院、1979)が、26年後には中粒砂に変化していた。湾奥の海域を除くと、堆積物に大きな変化は認められない。3)しかしながら、表層1cmに限ると、泥の割合が60%を以上の範囲が広く分布する(図2)。4)潮目直下のオリーブ色を帯びる堆積物は、高い濃度の硫化水素を含む。このことから、有機物付加により底層の酸素量が急減しやすい場所を初めて明らかにした。
注記 「八代海表層堆積物画像データベース」の配布 現在、私たちは地球科学、生物、化学、物理学の様々な手法を用いて、八代海の環境変化を歴史的に解明する研究を共同で行っています。小論の基になったデータベース(表層堆積物の画像データベース:CD1枚および堆積物分布図:A0版1枚)は、八代海の環境変化が追跡できる記録として、また身近な海の様子を知っていただくための教材として、活用されるものと考えています。 多少残部がありますので、国、地方自治体、研究・教育機関、企業に所属されている方には配布します。申し込み方法は、特定非営利活動法人みらい有明・不知火(代表:滝川清熊本大学教授)のホームページ(http://www.mirai-ay.or.jp/)にあります。 |
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