トップページ>【第3回】有明海・八代海の生物多様性と漁業 |
有明海・八代海の生物多様性と漁業 熊本大学沿岸域環境科学教育研究センター 逸見泰久 平成17年10月19日 熊本県は、干潟面積日本一の県である(写真)。戦後約3千haの干潟が埋め立てられたが、現存干潟面積は約1万2千haで、2位の佐賀県(約1万ha)を大きく引き離している。これらの干潟の大部分は、有明海・八代海に広がっているが、そこは、アサリ・ハマグリ・クルマエビ・スズキ・ノリなど、豊かな海の幸を育む宝の海である。また、東京湾・瀬戸内海などでは絶滅・激減した生物(シマヘナタリ・ハマグリなど)が豊富に生息する生物多様性の宝庫でもある。
しかし、1980年代以降、有明海・八代海の環境は急激に悪化し、漁獲量も激減した。アサリは、1980年前後には熊本県だけで年間約6万tの漁獲があったが、現在は5千t以下に過ぎない。ハマグリも漁獲量が過去25年間で約20分の1に激減した(図1)。アゲマキ・タイラギに至っては、近年ほとんど漁獲がなく、休漁状態である(表1)。クルマエビは放流しても育たず、ノリも色落ち・不作が頻発し、不安定な生産が続いている。さらに、有明海特産種(アリアケシラウオ・オオシャミセンガイなど)の大部分は、絶滅が危惧されるほどに激減し、その一方で、外来種(シマメノウフネガイ・カラムシロなど)の進入が相次いでいる。 このような干潟の環境悪化の原因として、流入負荷の増大・潮流の遅速化・土砂供給の減少と、それによってもたらされた泥化(ヘドロ化)・貧酸素水塊の発生・赤潮の発生、あるいは乱獲、塩性湿地・なぎさ線の消失などが考えられる。しかし、問題は複雑であり、また原因が複合的で、かつ地域によって異なるため、特定に至っていない。おそらく、多くの研究者によって指摘されているように、いくつかの原因が相互に影響し合い「負のスパイラル」に陥ったというのが正解であろう。 干潟環境の悪化要因の中でも特に重要なものは、流入負荷の増大・潮流の遅速化・土砂供給の減少である。流入負荷の増大は、家庭排水・農業廃水・畜産廃水・養殖漁業に起因する。潮流の遅速化は、主に埋立や防波堤の設置など沿岸地形の変化に起因するが、流入負荷の増大と相まって、海底の泥化と貧酸素水塊の発生をもたらす。ダム・堰の設置に起因する土砂供給の減少も、海底の泥化を進め、魚貝類の生息環境を悪化させている。
このように原因が複合的で、強く関連しているため、沿岸環境の改善は容易ではない。まずは、下水道の普及等による流入負荷の抑制・計画的漁業の推進・環境に配慮した沿岸域の開発など、早急にできることから始めるしか手はないであろう。 メールアドレス:henmi@gpo.kumamoto-u.ac.jp |
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