音とロボットからわかる有明海の環境

熊本大学沿岸域環境科学教育研究センター
准教授・秋元 和實

平成22年11月11日(木)

音とロボットによる環境の連続観測の必要性

有明海では、生物生息環境の悪化と生物多様性の減少が、顕在化している。環境変化の解明は、環境の再生と漁業資源を回復するために不可欠な情報である。

従来から実施されているサンプリング調査は、任意の地点および時刻 (間)において情報を得ている。このことは、地点と時刻の設定が、調査結果の精度に直結することを示している。同時に、複数の定点あるいは時刻の間で発生した変化は、研究者の推定に依存している。海洋環境は単調に変化するとは限らず、このために推定には絶えず「曖昧さ」が伴う。「曖昧さ」の解消に地点および調査数を増やせば、観測が長期化あるいは作業が煩雑化し、同一条件下での情報を得ることが難しくなる。加えて、有明海のように潮流の早い海域では、水質センサーを海底まで降ろすことも難しい。また、観測櫓・ブイの観測で夜間の環境情報が得られるが、設置されない海域では情報が欠損する。

従来の定点調査の欠点を補うためには、目的の測線・ポイントの地形・底質・水質・生物の分布を高精度で、時空間的に連続して調査できる装置が求められる。そこで、海底地形、底質を調査できる音響装置、および自律潜航して水質・生物の情報を収集できる自律型ロボットを導入した (図-1)。今回は、天草沖のナメクジウオ生息地の調査を基に、システムの概要を紹介する。なお、くまもと経済2010年11号18-19ページと同社HP (http://www.kumamoto-keizai.co.jp/content/asp/default.asp)のくま経フォトレポートに自律型ロボットでの調査の記事があるので、参考にされたい。

ナメクジウオ生息地における問題

天草上島 (天草市有明町赤崎)沖約3.5kmにある生息地は、周辺に比べて水深の深い平坦な場所に位置している。ドレッジ調査 (2003年〜2008年)で個体数の減少が認められ (逸見私信)、減少の原因として泥化と新規の個体の加入が少ないことが想定されているが、詳細は不明であった。しかしながら、ここでは多量の貝殻片が混じる分級不良の粗粒砂 (秋元ほか、2004)あるいは中-大礫が分布し (Henmi and Yamaguchi, 2003)、泥化の報告はない。また、新規個体の減少の原因は全く想定できない。これらの問題を検討するために、音響およびロボットで底質、水質、生物を調査した。

ナメクジウオ生息域の環境

サイドスキャンソナーイメージでは、生息地には粗粒砂ー礫が (図-2)、周辺では露岩 (砥石層の砂岩?)が分布している。ADCPによる計測で、海底直上の流速も、生息地で50cm/秒、周辺のそれは200cm/秒以上であることが判明した (図-3)。濁度も、生息地で0.2NTU以下であることが判明した。濁度も、生息地で0.2NTU以下、周辺で0.5NTU以上であり、流速の差異と一致している。また、画像でも、生息地に礫質の極粗粒砂あるいは中礫が、周辺に砂岩が分布している。周辺では海底が削剥され、生息地でも泥は分布していない。以上の結果から、泥化が減少の要因とは考えにくい。ナメクジウオ生息地直上の海水には、餌である珪藻が局所的に高いことも明らかになった (図-4)。



海底の連続写真で、生息地に複数のエイが確認された (図-5)。このことは、新規の幼体が加入しているのに、個体数が減少している原因として、捕食を考慮する必要性を示唆している。

ロボット観測の現状と問題点

受講者から、計画した性能と海域の使用時での間隔の違いについて質問を受けた。

長所は、無人のため、時間、場所、海況を選ばないことにつきる。加えて、位置情報を伴う連続した画像とサイドスキャンイメージは、従来のサンプリング調査では得られない情報を容易に取得できることである。さらに、多項目センサーの観測は、わずかな距離での水質の違いも三次元で取得でき、生物の局所分布を研究する上で有用と考えられる。

一方、欠点 (今後改善が必要な事項)は、自律型ロボットによる観測は、10年くらいしか歴史がない。このため、海域の特性に応じたオペレーション技術 (事故回避および故障後の回収を含む)が不足している。また、ロボットの開発者が環境調査に必ずしも精通している訳ではない。このため、現状では搭載できるセンサーが限定される。また、研究にマッチした解析ソフトの開発も求められる。

文献

秋元和實・滝川 清・島崎英行・鳥井真之・長谷義隆・松田博貴・小松俊文・本座栄一・田中正和・大久保功史・筑紫健一・松岡數充・近藤 寛、2004、ガラカブが観た有明海の風景-環境変化をとらえるための表層堆積物データベース-。(解説20pおよびCD1枚)、出版:NPOみらい有明・不知火、熊本大学沿岸域環境科学教育研究センター。

Henmi, Y. and Yamaguchi, T. (2003) Biology of the Amphioxus, Branchiostoma belcheri in the Ariake Sea, Japan I. Population structure and growth. Zoological science, 20, 897-906.

キーワード: 有明海、生物生息環境、音響システム、自律型モニタリングロボット

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