市民講座「有明海・八代海を科学する」
(2004/2/19/木)
1.潮間帯
|
2.干潟のはたらきと悪化
|
3.干潟の環境と生物
|
4.有明海・八代海の特徴
1.潮間帯
潮の干満によって干出・冠水を繰り返す地域.干潮時は干出して陸となり,満潮時は冠水して海底となる.
潮上帯 − 潮間帯(高潮帯−中潮帯−低潮帯) − 潮下帯(浅海)
(1)干満の原動力
… 主として月の引力によるが,太陽の引力も影響する.地球と月と太陽が一直線に並んだとき(新月・満月),引力は最大となり(大潮),地球と月と太陽が垂直のとき(半月),引力は最小となる(小潮).
(2)干満の程度
… 潮の干満は地形や海流の影響を受ける.日本に限れば,太平洋側では干満の差が大きく,日本海側では小さい.また,湾奥部では干満の差が大きい(有明海や八代海,黄海の奥部が典型的な例).
(3)潮間帯の区分
… 上部(高潮帯)・中部(中潮帯)・下部(低潮帯)
・潮間帯上部は干出時間が長く,潮間帯下部は干出時間が短い.→ 潮間帯上部ほど,高温や乾燥の影響が大きい.
(4)潮間帯の種類
・潮間帯は底質によって,大まかには岩礁・転石・干潟に分類できる.さらに干潟も底質によって,大まかに砂質干潟・砂泥質干潟・泥質干潟に分類できる.
▲上へ
2.干潟のはたらきと悪化
干潟の機能
干潟の悪化
(1) 生物生産性
… 食料としての魚貝類や
海苔(図3)
だけでなく,新素材・薬品の原材料等としても重要.未知の遺伝資源.
→ 魚貝類の激減.海苔の不作.外来種の侵入による在来種の減少.外来種との交雑による遺伝子汚染.
(2) 生物多様性
… 海草・貝類・水鳥など、干潟は生物の宝庫.特に有明海・八代海には
特産種(図4)
が多い.
→ 埋め立てや環境悪化による生物多様性の減少.外来種侵入による在来種の減少.外来種との交雑による遺伝子汚染.
(3)
浄化機能(図5)
… 細菌によって浄化が行われるだけでなく,海苔や魚貝類の漁獲によっても海域から多量の栄養塩類が除去される.
→ 環境の悪化による浄化能力の低下.底生動物の激減による底質攪乱・生物濾過機能の低下.漁獲の減少による富栄養化物質の増加.
(4) 親水性
… 干潟は身近な自然である。潮干狩りやバードウオッチングなど、多くの人が干潟に集まる.
→ 干潟の減少,海岸の堤防設置,漁業権強化による市民と干潟との隔離(入浜権).
▲上へ
3.干潟の環境と生物
干潟の底質(砂泥)は、川や海から供給される。一般に、潮流の速い場所は砂質干潟となり、遅い場所は泥質干潟となる
(1) 海洋生物の生活形
a.生活様式
1. プランクトン(浮遊生物)
移動力が全くないか、弱いため、水に浮いて生活する生物の総称。干潟に生息する動物の多くはベントスだが、幼生は一時的にプランクトンとして生活するものが多い。
2. ネクトン(遊泳動物)
移動力が大きく、水の動きなどに逆らって、水中を自由に遊泳して生活する生物の総称。干潟では、河口や潮だまりで生活する魚類や満潮時に干潟に入ってくる魚類などがこれにあたる。
3. ベントス(底生生物)
水底で生活する生物の総称。干潟では、貝類・多毛類・甲殻類が主なメンバー。
b.生活史
… 繁殖特性(繁殖開始齢・繁殖期・産卵数など)や寿命といった一生を生きる上でのスケジュールを生活史という。
1. 一回繁殖と多数回繁殖
2. r戦略とK戦略
3. 大卵少産と小卵多産
(2)干潟動物の食性
1. 肉食
餌動物を襲って食べる種類、あるいは動物の死骸に集まる種類。ツメタガイ・アラムシロガイ・ガザミなど。
2. 懸濁物食(濾過食)
水中の微小な動物プランクトンや有機懸濁粒子を濾し集め、食物としている種類。アサリなどの二枚貝。
3. 藻(草)食
アオサやアマモなどの海藻・海草や、砂の表面の微小な藻類を食べる種類。
4. 堆積物食
堆積物表面の底生珪藻や有機物粒子を食べる種類。サクラガイ・コメツキガニなど。
5. 泥食
泥を摂取し、消化管内で栄養分を吸収し、不要な砂粒などを排泄する種類。ムツゴロウ・ゴカイ・タマシキゴカイなど。
・懸濁物をセストン、堆積物をデトリタスという。 一般に懸濁物食の動物は砂地や岩礁に多く、堆積物食の動物は泥地に多い。
(3)生食連鎖と腐食連鎖
・ 生食連鎖
植物(植物プランクトン・海藻・海草など)の生産者を起点とする食物連鎖。陸上では主要な食物連鎖。
・ 腐食連鎖
セストン・デトライタスなど微生物を起点とする食物連鎖。海洋では主要な食物連鎖。
▲上へ
4.有明海・八代海の特徴
(1) 閉鎖海域
(2) 多量の栄養塩の存在
(3) 漁業(魚貝類・海苔)が盛ん(生産性の高い海域) − 八代海に限られるが、魚貝類の養殖が盛ん
(4) 生物多様性が高い(特産種を含め、生物の種類が豊富)
図6 ナメクジウオ
図7 ミドリシャミセンガイ
(5) 干満の差が激しい(潮流が早い)
(6) 浮泥の存在
(7) 黄海との共通性
「有明海・八代海を科学する」もくじ
【
熊本大学 地域貢献特別支援事業
】