「2016年熊本地震」において得られた知見データ等の地震関連情報をデジタルアーカイブとして蓄積し、今後の復旧・復興支援や防災・減災教育等に活用することを目的とした。特に、地震発生後、熊本大学は、復旧・復興に向けて種々の取組みを行った。大学執行部の対応、施設・設備の復旧対応、学生の安否確認や避難所での支援、授業再開への対応、医療支援、復興支援プロジェクトの立ち上げと7つの復興プロジェクトチームによる活動実施、工学部棟の被災後から仮設校舎への引越しなどである。また、熊本大学と東京大学先端科学技術研究センター及び熊本県は包括連携を提携して、復旧・復興の支援に取り組みも実施した。このように大学が対応したプロセスや地震関連資料(写真・音声・動画・その他文書資料)をデジタル化して残し、今後の防災対策、災害対応に活かすことを考えた。熊本県も、被害の実情や復旧・復興の過程で得られたノウハウや教訓等を記録・整理・蓄積し、後世に遺す事業を実施することから協力するようにした。今後他地域でこのような事態が発生した場合に備え、活用できるように整備することや防災・減災教育や研究に活用するための議論が重要であることから、熊本地震デジタルアーカイブ事業を実施するため熊本大学デジタルアーカイブ室を2017年4月に設置し、2017年度と2018年度の2ヶ年に渡る活動を行った。
1年目の2017年は、熊本地震のデジタルアーカイブ構築や資料収集することを目指し、東日本大震災で数多くのデジタルアーカイブの構築に関わった東北大学災害科学国際研究所の支援を仰いだ。共同研究を通してデジタルアーカイブの構築方法と資料収集や権利処理のノウハウについて学ぶことができた。特に、熊本大学内の熊本地震関連の資料収集数は5万点を目標とし、収集した地震関連資料は単なる保存にとどまらず、研究・教育での活用をはじめ、次の災害に対する備えや他の地域での利用・活用ができる必要があるが、多くの課題や問題があった。
2年目は収集したデジタルデータを加工し、東北大学のサーバーに熊大アーカイブシステム「ひのくに災史録」を構築して収集データを登録することを主として目指した。2018年6月には熊本大学で「2018熊本地震デジタルアーカイブシンポジウム」を開催し、ハーバード大学のアンドルー・ゴードン教授の基調講演をお願いした。また、包括連携をしている東京大学先端科学技術研究センターの牧原教授及び熊本県知事公室危機管理防災課の黒瀬様に熊本県のデジタルアーカイブの取組、及び熊本大学のデジタルアーカイブの取組を報告した。さらに地震被災の自治体である熊本市と益城町からの現況報告及びパネルディスカッションをして、デジタルアーカイブの利活用に向けての課題について意見交換を行った。また、デジタルアーカイブの利活用に向けては、「デジタルアーカイブ利活用検討WG」を2018年度に2回ほど開催した。
アーカイブの利活用については、「ひのくに災史録」のデータ構築を進めるだけでなく、国内外の大学のアーカイブとの連携を図る必要があった。東北大学やハーバード大学を始めとした様々なデジタルアーカイブとの連携を図り、アーカイブデータを利用した研究・教育の連携・交流に取り組んだ。しかし、ハーバード大等との連携に向けたコンテンツのグローバル化や東日本大震災などで構築された他のアーカイブシステムと異なり国立大学が被災したことを明確に示す手段についての課題は残った。
アーカイブシステムの運営と維持管理について、「くまもと水循環・減災研究教育センター」の柿本先生と竹内先生を中心に運営できる体制を構築できることになった。また、残された業務として以下の事があげられる。
- 画像などの地震関連資料のデータ登録作業の継続
- アーカイブシステムのデータ(登録を含む)を活用して、地震発生時から復旧までの大学及び関係者・学生などの対応状況のストーリーを画像と共に作成し、理解しやすい方法を検討する。あるいは教養講義で活用事例を紹介する。
- アーカイブシステムの公開とシステム改善の実施
- 公開後、他大学、特に東北大学とハーバード大学との三者連携を構築(準備はできている)及び国立国会図書館の「ひなぎく」や熊本県との連携をする。