閉鎖性海域が抱える環境・防災および地域社会形成に関する緊急かつ重大な国家的・国際的課題に応えるために、学際的・複合的で広範な研究分野で、「豊かな自然環境・社会環境の創生」を目指す新たな学識領域の研究・教育を行ない、より先端的な研究・教育の推進と、豊かな地域環境の創生に向けた技術開発・社会政策に貢献する。
特に、拠点形成研究の今後3年間は、河川・沿岸域の再生・創生に焦点をあてる。国内の河川・沿岸域では、高度成長期に作られた堤防やダムの改築等が進みつつある。しかし、新たに造成される構造物は、自然災害に対する防災機能だけでなく、地域の自然環境・社会環境との調和が図られる必要がある。このような背景から、本拠点では、新たなメンバーを加え、河川・沿岸環境の健全なマネジメントを目的に、自然環境・社会環境を構成する諸要素及び人間生活との相互関係を、自然・産業・歴史・文化・風土・景観等をふまえて解明し、「人間生活と共生した河川流域・沿岸環境の再生・創生」を目指す新たな学問領域の拠点形成を図る。なお、本拠点研究は、インフラ整備が急速に進みつつある東アジア地域などにも貢献できるものである。
有明海・八代海を始めとする沿岸環境の保全に関する研究の多くは、未だ基礎データ収集(現況把握)の段階にあり、環境修復・創出や持続的利用に向けた具体的な研究は緒に就いたばかりである。しかし、有明海・八代海の環境回復は国家的にも緊急の課題であり、行政も具体的な環境改善策の実施を模索している。また、国内では、高度成長期に作られた堤防やダムの改築等が進みつつあるが、新たに造成される構造物は、自然災害に対する防災機能だけでなく、地域の自然環境・社会環境との調和が図られる必要がある。このような背景から、本拠点では、新たなメンバーを加え、河川・沿岸環境の健全なマネジメントを目的に、自然環境・社会環境を構成する諸要素及び人間生活との相互関係を、自然・産業・歴史・文化・風土・景観等をふまえて解明する。言うまでもなく、有明海・八代海の環境保全に関する研究は、地元の熊本大学に科せられた課題であり、また沿岸環境に関する研究は、熊本大学が世界的な拠点となり得るテーマでもある。さらに、沿岸環境を保全するには、陸域・河川も含めた流域生態系の把握とマネジメントが不可欠である。そのような観点から、本グループでは、河川流域・沿岸環境の現況把握に加え、収集データの解析や具体的な環境修復・創出といった、より進んだ段階の研究を行い、世界的な拠点形成を目指す。
現在の拠点Bメンバーが長年に渡って実施・蓄積してきた閉鎖性海域に関する研究データと研究手法を駆使し、国や地方公共団体、さらには地域住民と連携して、環境改善に関する実践的研究を行う。国内の河川・沿岸域では、高度成長期に作られた堤防やダムの改築等が進みつつある。しかし、自然環境・社会環境と調和した構造物を作るには、自然・産業・歴史・文化・風土・景観等を踏まえた学際的・複合的な研究を行う必要がある。本研究グループは、異分野の多様な研究者から構成されており、新たな研究領域の創出をも視野に入れた総合的な研究が実施できるものと自負している。なお、拠点リーダーの逸見は、国や地方公共団体の委員・委員長を多数引き受けており(後述)、現在進行中の堤防・ダムの改修等において指導的立場にある。
現在、「八代海再生プロジェクト(略称)」(H23〜27、代表:滝川清)が進行しているが、当面はこのプロジェクトを軸に、「有明海・八代海の調査研究」を推進し、その中で、環境変化の著しい地域をモデル地区とした研究を進め、地圏・水圏・気圏、物理・化学・生物環境、社会環境に至る生態系把握と順応的管理に基づいた環境改善を行い、新たな大型予算の獲得を目指す。既に、我々は、有明海の横島干拓・塩屋海岸・熊本港や、八代海の桂原海岸・球磨川河口などで海岸・干潟・塩性湿地の修復・創生を実施しているが、今後は、荒瀬ダム撤去で環境の変化が予想される球磨川河口、有害汚染物質の蓄積が著しい八代海田浦湾などでも研究を推進する。また、拠点形成研究の3年間は、河川・沿岸域の再生・創生に焦点をあてる。具体的には、荒瀬ダムの撤去の進行する球磨川流域や堤防の更新が進む天草下島などを研究フィールドに、メンバーによる複合的・学際的な共同研究を実施する。
現在、河川・沿岸域の水産資源は、環境の悪化により衰退の一途にある。また、生物多様性は減少し、特徴的で学術的にも貴重な種が急速に失われている。原因は、水質悪化、砂・砂利採取、河川改修、乱獲など、人間活動に起因するものがほとんどであるが、原因を取り除くのは容易ではない。今後、自然環境の再生・創生技術、水産資源の保全・管理技術、多様性保全技術の、現状に則した開発が急務であるが、実効性と持続性のある技術開発には、流域生態系の理解が不可欠である。今後3年間については、特に荒瀬ダムの撤去の進む球磨川河口域と、堤防の更新が進む天草下島を研究フィールドに、生物多様性の解析を通した生態系構造の解明を行う。具体的には、流域に優占する種や特異な種を中心に、遺伝情報から生活・繁殖様式などの詳細な解析を行う。また、水産上重要な生物種を中心に、環境悪化に対する生物の応答情報を明らかにすると共に、養殖技術の開発や先端マリンバイオテクノロジーの導入により、水産資源の保全・増殖をおこなう。これらの研究により、河川・沿岸域における水産資源と生物多様性の保全研究の世界的な研究教育拠点の形成と、外部資金の獲得を目指す。
多くの生態系が人間活動によって劣化しているが、劣化度や環境回復のための施策の成功度を評価するためには、生態系の「健康度」を測る指標が必要である。河川流域や沿岸域では、環境の汚染度に対する耐性の異なる大型無脊椎動物の有無を基準とする群集指標を用いて、生態系の「健康度」を数値化する試みがなされている。しかし大型無脊椎動物は生息密度が低く、十分な試料を得るのが難しい。一方、メイオベントス(1mm以下の小型底生生物)や微生物の生息密度は、堆積物数mlに数百~数億個体と高く、標本採集効率が極めて高いが、分類体系が確立されていないため生物同定に時間がかかるというデメリットがある。だが、近年急速に進歩した安価で効率の高いDNA解析技術を導入し、小型生物から抽出された遺伝子バーコードを分類単位にすれば、作業効率は格段に上がる。海底の泥化が進んだ海底、人間活動の影響の少ない自然海岸など、河川流域や沿岸域のさまざまな環境下から採集した堆積物中の微小生物の遺伝子バーコード表を、森村らと共同で作成することにより、各環境下の群集構造の類型化を行う。この結果を元に、閉鎖性沿岸域生態系の「健康度」を定量化する簡易な群集指標を作成する。
温暖化により、世界的の農地や湖沼で塩害が広がっている。塩生植物のハママツナは世界各地の海岸に分布し、内陸地にも生育することから、干潟や農地の保全や修復への利用が期待されているが、研究はヨーロッパが中心であった。平成20〜25年拠点形成研究では、有明海・八代海の塩生植物の中から、世界各地の沿岸域環境研究に利用可能なモデル植物の検索を試み、遺伝的多様性解析の結果から、ハママツナが有用であることを明らかにした。エジプト政府奨学金によりアズハル大学の博士課程学生が、本年11月から約2年間、沿岸域センター教員の指導により有明海と紅海海岸に自生するハママツナの生理生態的研究を行う予定である。遺伝的多様性とストレス耐性能の解析は瀧尾が、生態学的特性は逸見が、有害物質除去能は中田・森村が担当する。3年目には、それまでの成果をもとに、本学で学位を取得した内モンゴル農業大学・張博士、平成20〜25年拠点形成Bで交流を開始した青島海洋研究所との連携により、中国海岸と内陸でのハママツナの解析へと発展させる。
微生物は、海・河川水、土壌、空気、動物・植物の体内をはじめ、高温、高塩濃度、強酸・強塩基などの極限環境に至るまであらゆる環境に生息し、他の生物には見られない多様な代謝系を有している。したがって、環境中の微生物の種類や代謝特異的遺伝子が、環境マネジメントにおける評価指標となりうることから、嶋永らと共同して環境健全度評価指標を作成する。また、特異な代謝系は、環境中に蓄積された難分解性物質の浄化に利用することが可能である。中田が環境汚染状況を明らかにした八代海田浦湾および水無川における多環芳香族炭化水素(PAH)やビスフェノールAなどの有害物質を微生物分解する技術を開発し、東南アジアをはじめとする同様の汚染に悩む他地域での貢献を目指す。
球磨川は、尺アユ(大型のアユ)が生息する全国有数のアユの河川であり、かつて遥拝堰下流は、アユの良好な産卵場であった。しかし、堰の改築や砂利採取等によって、アユの産卵場としての機能は低下・喪失しつつある。これを受け、現在、遥拝堰下流に、かつての八の字型河床子構造物を設置し、アユの産卵場を再生する計画が検討されている。本研究では、アユの産卵場再生の一手法として八の字型河床構造物に着目し、その水理学的特性とアユの産卵場としての機能評価を行うとともに、アユの産卵場としての機能を有する構造物、土砂管理のあり方に関する基礎知見を得ることを目的とする。
沿岸域では、しばしば、高潮や津波による甚大な災害が発生する。ただし、閉鎖性の強い内湾では、高潮被害に注目するあまり、津波被害をしばしば過小に想定する傾向がある。しかし、遠地津波 (チリ津波)では八代海沿岸が冠水し、南海トラフ連動型地震(宝永大地震:1707年,M8.6)では熊本県下で約20,000人が死亡したとされている。歴史地震の津波被災史は、陸域に残された津波堆積物の解析で明らかになりつつある。津波の引き波で流入した陸源性堆積物は、沿岸に広く分布している。そこで、被災記録にある熊本沖・八代沖で、音響機器を用いて詳細な地質断面を作成し、堆積物より歴史地震との関係を解析する。高性能の地層探査機を用いることで、これまで把握できなかった津波堆積物を探査する。なお、巨大津波を生じるプレート境界型地震は、太平洋、インド洋東部沿岸でも発生していることより、海象災害に対する防災・減災に関係する基礎的・応用的研究に向けた共同研究が可能である。
人間活動により河川流域や閉鎖性海域に排出される化学物質を質的・量的に把握する。また、干潟に生息する多毛類や貝類などの底生生物を対象に化学物質の生物濃縮の態様を明らかにし、沿岸生態系に及ぼす多面的汚染リスク評価系を確立する。加えて、深刻な環境負荷が懸念される有害物質の汚染源の特定を試み、排出抑制に向けた具体的施策を提案する。
上記の具体的取組として、八代海沿岸の球磨川河口とその流域圏を対象に調査研究を実施する。当該地域は、上流のダム撤去に伴うドラスティックな水環境の変化が予想されることに加え、近隣の河川から底生生物への影響が懸念される化学物質の負荷が確認されている。閉鎖性海域で起こっている様々な生態系の変化や影響メカニズムを化学・生物を含む多面的視点で解き明かし、効果的な解決策を探る試みから得られる知見は、同様の問題を抱える国内外のフィールドにも応用できよう。
文化的景観は、日本で最も新しい文化財保全制度であり、地域固有の歴史、自然環境、生活・生業を支えてきた風景の生成メカニズムを地域住民と基礎自治体が協働して継承していく取り組みである。文化的景観保全に有用な、地域の普遍的な価値を、地域住民・行政・アソシエーションの各ステークホルダーが発見あるいは再発見し、その価値を共有し、持続可能な未来を創造していく施策を立案し実践している。拠点形成研究では、国土基盤、地域基盤、生活基盤として公共の用に供してきたインフラストラクチャーに関する土木史研究を行い、各基盤施設、システムと地域の関わりの変遷を分析する。その知見を、地域住民・行政との協働による土木遺産の保存・活用施策や、地域学習、公共空間デザインのための合意形成などに活かす。
沿岸域は豊かな生態環境の場であると同時に、我が国を特徴づける貴重な風景を有した場である。従来の防災などに特化した単目的の整備では、それらの維持は困難である。一方、沿岸域に関する蓄積された調査・研究成果を、実践的な整備に反映させる努力も今後求められる。そこで、防災・環境・景観など多様な目的を統合した環境デザイン技術の開発を、現在、整備計画が検討されている球磨川河口部などをフィールドに行う。現在、東北三陸地方では海岸整備について、多様な議論が生じているが、この成果は、それらの課題解決にも貢献するものと考える。
高度経済成長期を境として人々の生活文化は大きく変容し、とくに生産手段や生業にかかわる儀礼、相互扶助等の人間関係は著しく変化したといわれている。その一方で、神仏のまつりや人生儀礼、贈答を媒介とした人間関係およびハレの日の食生活等は緩慢な変化であったことも指摘されている。
これらを背景として、高度経済成長期以前に当該沿岸域を支えていたものは何だったのか。そして、高度経済成長は当該沿岸域に何をもたらしたのか、そのことによって何が失われたのか。あるいは緩やかな変化はあるものの、いまなお受け継がれているものは何なのか。ここではそうした視点から、里・海・山の生活文化の変容を分析する。また、三河湾などの先行研究事例を参考にして、当該沿岸域がかかえている課題を整理するとともに、「過去」「現在」「未来」、「継承」「創造」をキーワードに新たな里海づくりための基礎的研究を行う。
国内外の沿岸域の研究者・研究機関との連携を強化する。国内では、有明海・八代海をフィールドとする研究者・研究機関との連携に加えて、その他の閉鎖性海域(瀬戸内海など)の研究者・研究機関との連携を強化する。その際、合津マリンステーションも参加している全国臨海・臨湖・センター所長会議の連携等を有効活用する。
国外では、2010年度以降、研究者の往来などで研究交流を深めている中国の北京大学と青島海洋地質研究所、ベトナムのハノイ建設大学、台湾の水産試験場等とのパートナーシップを強化する。現在、(独)日本学生支援機構(JASSO)の支援でハノイ建設大学の大学院生が熊本大学に1年間(2013年10月~2014年9月)滞在し、中田准教授らの指導の元、化学物質の環境負荷に関する共同研究を行っている。また、中田研究室の大学院生もハノイ建設大学に3か月間(2013年10月~12月)滞在し、ベトナムの地下水調査を行うなど、具体的な取組が行われている。その他、海外の研究者との新たな連携として、エジプトのアズハル大学の大学院生がエジプト政府奨学金(二国間プログラム)により熊本大学に1年間(2013年12月〜2014年11月)滞在し、瀧尾教授らの指導の元、塩生植物の生理生態と干潟の環境浄化能に関する研究を行う。同プログラムでは、1年以内に受入先教員がアズハル大学を訪問し研究打ち合わせを行うことになっており、その機会にエジプト側の研究ネットワークと北京大学や青島海洋研究所の干潟環境の研究グループとの連携も行う予定である。これらの研究機関との連携を深めるために、年に1回、海内外の研究者を招聘し、国際シンポジウムを開催する。
本学の学生・院生だけでなく、国内外・他大学の学生や若手研究員、民間会社の技術研究所や国の研究機関に所属する研究者、一般市民などに対して、研究プロジェクトや学術交流、講演会、公開臨海実習などを通じて、沿岸環境に関する学際的・複合的な総合分野の研究・教育を行い、広範な分野からの視点を持った人材を育成する。同時に、人材育成を通して、研究ネットワーク網を構築していく。人材育成に関しては、今まで築いてきた研究・教育ネットワーク(大学や研究機関との連携、行政やNPOとの連携、臨海・臨湖・センター所長会議、文部科学省の全国教育拠点に認定された合津マリンステーションなど)を最大限に活用する。
なお、学生に対しては、学会(海外での国際会議を推奨)での研究発表を義務化し、拠点研究経費より旅費等の補助を行う。また、本グループが広範な分野の研究者から構成されているメリットを生かし、年1回、合津マリンステーションで、学生による異分野研究発表会(1泊2日)を行う。
10名の常勤教員、5名の協力教員、臨時職員1名、URA1名で運営する。臨時職員は環境行政に精通し、拠点形成研究で得られた複数のデータを整理・統合して環境行政に対して提言するためのコーディネーターとして雇用する。コーディネーターにはデータの解析と環境行政に関して専門的知識が必要であり、コーディネーターとともに、URAを指導する。
リーダー(逸見)、サブリーダー(中田)、会計(滝尾)、事務(嶋永)、国際担当(森村)、データ整理分析(臨時職員、URA)が該当する役割を分担して活動する。
毎月1回メンバー全員による定期的会合を開き,打ち合わせをおこない、メンバーの相互理解を深めると共に、研究の進展を計る。また、会議において研究報告がある場合はその研究に参加した学生による発表の時間も設けて、学生の活性化も計る。
大学教員が必ずしも得意ではない、一般市民への研究広報活動(研究内容を分かりやすく紹介するためのアドバイス、ホームページの編集・管理など)ではURAを大いに活用する。また、我々が馴染みのない、科研費以外の外部資金(民間も含めて)の情報提供と申請書の作成に関してのアドバイス(その資金に採択された研究グループの研究内容、可能ならば申請書のコピーの入手などの情報収集)を,経験豊富なURAから受け、外部資金獲得率を大いに上昇させる。この他、研究報告書の編集作業、既存データの入力・整理、予算管理など、専門知識は必要ないが運営のために必要な雑務の教員への負担を、URA活用によって軽減し、研究・教育活動に専念できるようにする。
拠点形成B「閉鎖性沿岸海域における環境と防災、豊かな社会環境創生のための先端科学研究・教育の拠点形成(平成20〜25年)」(代表:滝川清)
〒860-8555 熊本市中央区黒髪2丁目39番1号 熊本大学黒髪南キャンパス 共用棟3 612